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古物がもたらす偶然のストーリィ

あなたは、物についてどんな想いがありますか? 人、物を見続けた古道具屋のご主人が、独自の視点で現場の出来事をフリーペーパーに綴り本として出版されました。その経緯とは?

国分寺恋ヶ窪の、古道具ニコニコ堂


ユニークな置物や雑貨達。配置バランスが絶妙。

西武国分寺線恋ケ窪と、中央線国立の中間辺りに、「古道具ニコニコ堂」(正式名:「ニコニコ堂自然道具別館」)が存在しているのをご存知でしょうか?

看板の文字が禿げてしまっていて通り過ぎてしまいそうになるのですが、国分寺の古道具屋としては、有名店だそう。山小屋のような外観だが、中に入ると個人ギャラリーのような、博物館のような雰囲気で好奇心を掻き立てられます。人形、文房具、オーディオ等が、店主のセンスでディスプレイされた空間は、ミニワンダーランドのよう。

1978年に開業し、36年間古道具店を営んでいる、店主、長嶋康朗さん(以降、ヤスローさん)に、お話を伺いました。

古道具屋開業の背景から


ヤスローさんは、もともと収集癖があったそうな。又、体調の都合で、電車通勤する会社員は自分には向かないと判断していた時期、普通のアパートぐらいの家賃で借りれる場所があったので、お店を始めました。リペア中心の仕事から始めたそう。当時は、リサイクルショップがなかったので依頼が多く、使えなくなった冷蔵庫等の家電も直し、販売していたとのこと。しかし、リサイクル業が一般的になってくると、需要が減り、収入も減り始めたので、骨董品の売買にシフトしました。骨董品を扱うようになって、自分の好みというか、美しいと思う基準が自然と芽生え、ブランド物や高価な物より、無名でも修理して使い込んだ物に、興味を持ったり、愛おしいと思うようになったとのこと。ボロボロの物でも、素材そのものが美しいと思ったそう。買い付ける際には、人が面白いと思うだろう、と考えるより、自分が興味を惹かれ、いいと思う物を選んだそう。当時の客は、商品の使い方、用途を説明しなくても、自分でその物の面白さを見つけ、「よし、手掛けてみよう」という楽しみをも持ち帰っていたという。ヤスローさんは、人と人の間に、物があって、その物を媒体として派生するいろいろな会話が楽しかったという。そういった会話の中から、店に愛着を持って貰えたり、信頼関係が生まれていく、と言葉が印象的でした。

フリーペーパー刊行


1990年頃から、ヤスローさんはお客のあれこれを綴ったフリーペーパー「ニコニコ通信」 を不定期で刊行し始めます。

半分「愚痴」をこぼす感じで始めたそうで、20部限定で、渡したい人にのみ送ったり渡していた。通信は評判を呼び、3冊の本を出すまでになります。

そのうちの1冊、ニコニコ通信を読ませてもらったが、実は彼の文章は、お店の事を書いているようで営業業務とは全く関係ないような、客との関わりに焦点を当てています。例えば、不用品を引取りに行った家で、目的物「以外の物」が気になり出し会話が膨らみ、その、「以外の物」とお客との長い付き合い(ストーリィ)が生まれたりするそうです。

実は、私とヤスローさんと今回の取材で20年ぶりの再会をしました。20数年前、私はニコニコ堂さんの近くのバレエスタジオに通っていたのですが、その途中にお店の不思議な佇まいに惹かれ、思い切って足を踏み入れたのが最初でした。初めてお会いした日、ロックのレコードが飾ってあって何か親近感を持って、話しかけましたっけ。店に通うようになってしばらくして当時活動をしていた、マイムの舞台に使う人形を買ったこと。またヤスローさんに勧められて、三面鏡を買う決意をして家まで届けてもらったりしました。通い込むうちに仲良くなって、音楽の話をするようになって、私が好きな日本のミュージシャン(当時国分寺在住)とヤスローさんが知り合いで、出来たての音源を貰ったからと、貸してくれたりしました。そんなことをヤスローさんに話した所、「いたな、そんな女の子が。バレエスタジオの下で手を振ったの、覚えてる?」「あ、はい」「でも、突然来なくなった」と会話が続きました。引越しをして別の場所で暮らし、また、戻ってきたことを話したら「元気でよかったね」と。そして、取材終了後、私が持参した音楽を聞きながら、時間を過ごし、その時間は、懐かしいというより、とても濃厚で楽しいひとときでした。

自分の感覚を大切に


ヤスローさんお気に入りのお手製のディスプレイ、「アルミ聖人」
バックヤードから見た店内は、どこかシアターの楽屋裏の様。気分が乗れば、お店にあるすこぶる音のいいオーディオで音楽を聴かせてくれるかも。

私が最もヤスローさんらしいと感じた物があるのです。「アルミ聖人」と名付けられた物で、アルミホイルを直立に立たせ、顔がついています。

このように商品を一つ一つ見ていると、「一体、誰が売りに?」「誰の元ヘ?」と心の中で思わずクウェスチョンしてみて、ヤスローさんの人となり、を想うと、納得でき、おかしくなります。物に元々用途なんてなかった気がしてくるのが不思議です。ありのままの物の持つ可能性の豊かさが頭の中に、心の中に、広がってきます。

取材の最後に「これから自分で何かをスタートしたい人に伝えたいこと等ありますか?」とお伺いしたら、「自分のセンスを磨いてその感覚を大切にしてやっていってほしい。そういう人に期待している」と言われました。何だか、とても勇気を貰え、背中を押されたような暖かい気持ちになりました。

ヤスローさんが、古道具屋を続けてきて見つけたキラキラした出来事達。 ニコニコ堂に来たら、あなただけの「古道具ストーリィ」が始まるかもしれません。 ぜひ、訪れて見てくださいね。

2014年11月04日|国分寺市

記者プロフィール

石井 おりえ
小平市在住。音楽、自己流路上観察、日常から物語を空想、創作する事が好き。元ダンサーという経験が尾を引いてか、何かと大げさな身振り、言葉ぶりで、日々を送り気味傾向あり。時々想いが空高くかなたに飛行しがちですが、文章を書くことでバランスがとれていると感じる今日この頃。

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